ドル調達コストが急騰、日本企業から悲鳴 外貨建て投資の見直しも

ドル調達コストが急騰、日本企業から悲鳴 外貨建て投資の見直しも

11 11月 2015, 14:51
Yamaguchi Katashi
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為替スワップ市場で、ドル調達コストが急騰し、日本企業から悲鳴が上がっている。12月米利上げ観測が強まり、年末・年度末を控えて日本企業がドル調達を行ったためだ。

さらに、リーマン・ショック後に強化された米金融規制も影響している。国内の低金利環境が長期化し、本邦投資家の外貨建て投資が急拡大してきたが、ドル調達コストの上昇で、見直しが必要になっている。

ベーシスがリーマン以来の高水準

日本の投資家は外貨建て資産に投資する際、為替変動リスクを回避するため、為替スワップなどを利用し円を担保としたドルの短期資金借り入れを行うことが一般的だ。

為替スワップでは日本より米国の金利水準が高いため、その分のコストを払うのだが、その日米金利差にさらに上乗せされるコストを「ベーシス」と呼んでいる。

日米の金利差は3カ月物で現在27ベーシスポイント(bp)だが、今月9日の取引ではベーシスが88bpまで急激に上昇し、リーマン・ショック直後の2008年10月以来の水準に達した。これによって、日本勢が円投/ドル転に際して支払うコストは115bpまで上昇した。

同コストは11日までにやや低下したが、年初は20bp程度だったベーシスは依然として7年ぶりの高水準を維持。ドル調達コストの急上昇に、国内の金融機関からは「悲鳴に近い声が聞こえてくる」という。

SMBC 日興証券・シニア金利ストラテジスト・野地慎氏は「今回のベーシスの急騰は、外貨建て貸し出しのロールオーバーに絡むドル需要が関連しているのではない か」と分析している。円投/ドル転では「もともと需給のバランスが悪く、適正な水準が存在せず、いったんバランスを崩すと金利が跳ね上がるリスクがあ る」と警告している。

ある外資系金融機関トレーダーは「ここまでベーシスが高まってくると、ヘッジコストをかけて米国債を買うのか、あるいは米国資産を圧縮するのか、決断を迫られるだろう」と述べた。

今年末をクリアしても「今後、邦銀の外貨ALM(資産と負債の総合管理)はドラスティックな見直しを迫られる」と述べた。

為替変動リスクの回避手段として、外貨建て社債の発行や外貨預金の受け入れもあるが、スワップと比べコストが高く、日本の銀行は積極的ではなかった。

日銀によると、米ドル建て貸出は邦銀のアジア向け貸出の30%超を占める。6日に発表された10月米雇用統計を受け、12月米利上げ観測が高まり、米利上げに伴う資金調達コストの上昇は収益圧迫に直結する。

さらにドルの供給側も「利上げをにらんで控えている。SWF(政府系ファンド)などが、様子見している」という。

ベーシスは9月にも、一時70bpを超える水準まで上がった。半期末のドル需要に加えて、中国などの新興国が自国通貨防衛のため外貨準備(円資産含む)を取り崩してドル資金を確保したため。これも円投/ドル転コストの押し上げに関与したとみられる。

<規制強化でドル供給減>

例年、年末や期末には、欧米銀が外貨ポジションを減少させるため、ベーシスには上昇圧力がかかった。しかし、世界金融危機以来の高水準となった背景には、危機後に各国で導入・強化された金融規制があるためと考えられている。

レバレッジ規制やボルカールールの影響により、国際的な取引を行う金融機関はリスク許容量を大幅に低下させており「ベーシスという裁定機会を使い、小金稼ぎをする余裕もないようだ」という。

円投/ドル転には、スワップの相手方(ドル資金の出し手)となる欧米銀に円資金に対し需要があることが前提となる。

しかし、規制の下では、スワップやフォワード取引によるバランスシートの膨張がコスト増につながる。また、先進国の中で最もソブリンリスクの高い円資産には流動性バッファーの保有を義務付けられるなど、円保有のインセンティブは低下している。

その結果、外貨建て投資を急拡大する日本企業がもたらす「円の供給増/ドルの需要増」に対して、海外勢の「弱い円需要/ドルの供給減」という不均衡が生まれ、ベーシスが拡大しやすくなっている。

日銀の量的・質的金融緩和によるポートフォリオのリバランス効果や年金によるリスク資産投資拡大などによって、日本勢の外貨建て投資はアベノミクスの下で拡大を続けてきた。

財務省によると、日本勢の対外証券投資(株式・中長期債・短期債合計)は10月に3兆1877億円と4カ月連続の買い越しになっている。昨年1月から今年10月までの累計では43兆1828億円に膨らんだ。対外直接投資も今年9月までの累計で24兆1912億円と巨額の状態である。

 

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