京セラ稲盛氏:社員を路頭に迷わせるな、わがままな株主にNO

京セラ稲盛氏:社員を路頭に迷わせるな、わがままな株主にNO

5 11月 2015, 15:31
Yamaguchi Katashi
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京セラの稲盛和夫名誉会長(83)は、企業統治(ガバナンス)改革が進む日本で活動を活発化させている物言う株主(アクティビスト)について、短期的な利益を求めてくる株主には、場合によって毅然(きぜん)と拒否することも必要と述べた。

稲盛氏はブルームバーグとのインタビューで、株主還元を求めるアクティビストについて「投資家が多くの収益を得たいと考えるのは一面正しいし理解することができる」と指摘。しかし、「会社を倒産させて社員を失業させるわけにはいかない。経営の安全のためにこれだけの余裕が必要だと、身勝手な要求に対しては毅然として反対しないといけない」と考えを示した。

安倍晋三政権は海外企業に比べて低い日本企業の収益力を高めるため、ガバナンス改革を進めている。株主資本利益率(ROE)8%以上を目標とする具体的な数値目標を打ち出した。この中、オアシス・マネジメントは3月、京セラ株約1%の株式を所有しているとして同社に対し、日本航空株やKDDI株を一部売却し、株主還元に回すことなどを要求した。

京セラはKDDI株の13%を保有する筆頭株主。稲盛氏は、株式売却による株主還元は「当然、投資家として要求することだと思う」としながら、「KDDIを筆頭株主として守る責任がある。持ち株を分散させて、株主構成が不安定になるのは望ましくない」と語り、同社は京セラが中心となって設立した歴史を説明した。

保有資産の価値が急膨張

KDDIの株価は、携帯電話事業の好調などを背景に過去3年間で4倍近くに上昇している。保有するKDDI持ち分の時価は、京セラ自体の時価総額のほぼ半分(9900億円)に達している。このような中で9月末時点の京セラのROEは5.8%とTOPIX構成銘柄平均の8.6%より低い。

オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者(CIO)は、ブルームバーグの取材に対し「われわれは株主であって『身勝手な』株主ではない」とし、「経営陣が株主から会社を守る義務があるという考え方は、まさしくアベノミクスが変えることを目的としている行動原理そのものだ」と稲盛氏の見解に反論を述べた。

KDDI株の価値が急拡大する一方、同時期の京セラの株価は50%程度の上昇にとどまり、これはTOPIXの84%を下回っている。稲盛氏は1959年に京都セラミック(京セラ)を創業し、84年には通信自由化を受け第二電電(KDDI)を設立、2010年には破綻した日本航空の経営を任され再上場につなげた。

「従業員が一番」

稲盛氏が創業した京セラの社是は、会社経営目的を「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことだとしている。会社法上では株主が会社の所有者だと規定されているが、稲盛氏は「株主より従業員が上だ」と断言している。「社員を大事にし、喜んで働いてくれるようにすることにより会社の業績は上がる。それは株主にもいいことで、決して利害が対立しない」と考える。

稲盛氏が経営理念を説く私塾「盛和塾」には、中小企業の経営者らを中心に9000人が参加する。サンフロンティア不動産の堀口智顕社長は、年12回は盛和塾に参加する。「稲盛塾長は経営の神様そのものである。日本航空社員のメンバーは変えずに心を変えて、たった2年で急回復を実現させたことでも分かる」と語った。

稲盛氏は65歳の時、臨済宗妙心寺派円福寺で在家得度を受けた。まだ幼少の頃、父親に連れられて郷里・鹿児島で得た「隠れ念仏」の体験が原点で「神様、仏様の存在があり、厳しい環境、いい環境、どんな環境でも与えてくれている天地、自然に感謝する気持ちを持ち続けた」という。「経営者が企業を治めるためにはまず自分自身を治めていく規範を身に着けなければならない」と説いた。

京セラの株価は午後1時42分現在、前日比91円(1.6%)高の5678円で推移。

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