政策運営で苦境に陥る欧州の中銀、FRBと好対照

政策運営で苦境に陥る欧州の中銀、FRBと好対照

26 11月 2015, 11:58
Yamaguchi Katashi
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欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(英中央銀行、BOE)、スイス、デンマーク、スウェーデンといった欧州の各中銀はいずれも政策運営で苦境に置かれている。米連邦準備理事会(FRB)が堅調な経済成長や雇用を背景に12月に利上げしようとしているのとは好対照だ。

各中銀にはそれぞれ異なる悩みがあるが、投資の冷え込みや高失業率、高齢化などによる長期的な潜在成長率低下に見舞われてきた経済にあって、中銀が物価を再び押し上げるのはますます難しくなっているという点は共通している。

ECBは来週12月3日の理事会で追加金融緩和に踏み切る公算が大きい。

ロイターがまとめたエコノミスト調査では、「市場の緩和観測を高めてきたECBはもはやその期待を裏切る危険を冒すことは不可能だ」(BNPパリバのケン・ワトレット氏)というのが大方の意見だった。

追加緩和が必要なのは、ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)前年比上昇率がゼロ近傍をうろつき、コアCPI上昇率でも1%とECBが目標とする2%弱の半分程度にすぎないからだ。

ECBのドラギ総裁は来週の追加緩和を示唆してきたが、ECBはもはや緩和手段を使い果たしたとの見方に強く異を唱えている。しかし政策金利がゼロもしくはマイナスになった時点で、いったいどれだけ金融政策が効果を発揮できるのか疑問視する向きもある。

国際決済銀行(BIS)は7月、一部の国・地域では金融政策は既に限界点に達し、考えられないような領域へと突入しつつあるとの見解を示した。

実際、ECBによる潤沢な資金供給で金利のシグナル機能が損なわれ、伝統的な予想物価上昇率の指標としての信頼性に黄信号がともるという弊害も出ている。

こうした異常な事態であれば、ECBが 来週の理事会が迫っている中でも、なお最大で20もの新たな手段を検討しているというのもうなずける。その中には既にマイナスの中銀預金金利を最低でもさ らに10ベーシスポイント(bp)下げることや、毎月の債券買い入れの増額、中銀預金利を2段階式にして一定額以上の預金により大幅なマイナスを適用する 案などが含まれる。

ECB理事会メンバー内のタカ派として知られるドイツ連銀のワイトマン総裁も、追加緩和に表だって反対していない。恐らくはドイツの成長が鈍化し、同国の主要輸出先のアジア経済も勢いが弱まっているからだろう。

ユーロ圏のある中銀の高官は「ドイツから為替レート下落を歓迎するとの声が出てくることは決してないが、彼らは何も言わずに満足している」と語り、ドラギ氏が追加緩和を示唆して以降にユーロ/ドルが6%下げた点に言及した。

<残る手段少ないスイス>

ユーロ圏以外に目を向けると、BOEは利上げのタイミングを手探りする状態が続いている。カーニー総裁は、英国の金利がいつ上がり始めるかはわからないと発言。以前に比べると利上げ時期についてよりあいまいな表現になった。

カーニー氏は24日に議会で「利上げの時期がいつが適切かは国内経済の強さと強く結びついている」と指摘した。

スイスやデンマーク、スウェーデンの中銀は、ECBの追加緩和が見込まれる中で、自国通貨の過大評価を修正することに苦心を重ねているところだ。

スイス中銀の場合、スイスフランの行き過ぎた上昇から経済を守るために一段の対応を迫られているが、既に政策金利をマイナスにしていてもフランが安全資産とされて資金が流入しているため、もはや打てる手がなくなってきたように見える。

クレディ・スイスのエコノミスト、クロード・モーラー氏は「スイス中銀にとって、今直面している状況で使える手段は多くないというのはよろしくない材料だ」と述べた。

中銀ウオッチャーによると、自国通貨に資金避難先という制約がないスウェーデンやデンマークは、ECBが追加緩和すればいつでも通貨高を抑える為替介入に乗り出す可能性があるという。

 

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