記事「MQL5におけるパイプライン」についてのディスカッション

 

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本記事では、機械学習におけるデータ準備工程の中で、重要性が急速に高まっているデータ前処理パイプラインを取り上げます。前処理パイプラインとは、生データをモデルに入力する前に通す一連の変換ステップを整理し、効率化したものです。一見地味な作業ですが、前処理(特にスケーリング)は学習時間や実行コストを削減するだけでなく、モデルの汎化性能を大きく左右します。本記事ではscikit-learnの前処理関数を中心に扱います。MQL5ウィザードはここでは使用しませんが、後続の記事で取り上げる予定です。

Pythonのscikit-learnライブラリは、事実上、機械学習の前処理における業界標準となっています。最小限のコードで、特徴量を中心化するStandardScaler、特徴量を固定範囲にスケーリングするMinMaxScaler、外れ値の過度な影響を抑えるRobustScaler、特徴量をバイナリ表現へ展開するOneHotEncoderを適用できます。さらに、scikit-learnのpipelineクラスはこれらのステップをシームレスに連結でき、モデルへ渡されるすべてのデータセットが同一の変換シーケンスを受けられます。このモジュール式でプラグアンドプレイな仕組みにより、機械学習は多くの業界で急速に普及しました。

一方で、MQL5開発者は全く異なる現実に直面します。MQL5は取引データの処理自体は比較的効率的ですが、scikit-learnに匹敵する前処理手法をネイティブには提供していません。スケーリング、エンコード、欠損値補完のいずれであれ、各変換は手作業で実装する必要があり、しかも断片化しがちです。その結果、バグが混入しやすくなるだけでなく、再現性や学習データとテストデータの一貫性確保も難しくなります。

これに対する解決策として、scikit-learnの思想を模倣した前処理パイプラインクラスをMQL5で設計することが有効だと考えます。CStandardScaler、CMinMaxScaler、CRobustScaler、COneHotEncoderといった再利用可能なモジュールを実装できれば、前処理パイプラインを1つのコンテナとして連結できます。この構造により、生の金融時系列データが深層学習モデルへ渡される前に体系的な前処理を受けられるようになります。これは、モデルをMQL5でネイティブ実装する場合でも、ONNX経由で読み込む場合でも同様です。この仕組みを利用すれば、MQL5でもPythonでおなじみのワークフローを採用でき、よりクリーンな実験、より迅速な開発、そしてより信頼性の高いAIシステムの構築が期待できます。


作者: Stephen Njuki