法人減税は設備投資を促進せず。企業は必要投資のみを実施

法人減税は設備投資を促進せず。企業は必要投資のみを実施

22 11月 2015, 18:01
Yamaguchi Katashi
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経済の好循環と成長力強化を目指し、政府は来年度の法人実効税率の引き下げ幅を増やして、企業の設備投資を促進しようとしている。しかし、企業側はさらなる投資拡大には慎重である。減税の財源次第では設備投資意欲を逆に減らすことになるし、中国など世界経済の先行きにリスクも残り、政府の思いどおりに投資が拡大するとは言えない。
<投資拡大もたらさない法人減税、内部留保課税の声も>
「経済界はそれほど関心が高まっていない」──内閣府の官僚は不思議がる。来年度(16年度)にも法人実効税率を20%台まで下げることに企業側の動きが活発ではない。実際、経団連の中からは財源確保が難しいなら、20%台への下げは17年度でもいいと言われる。
経済界が乗り気でないのは、法人減税にメリットがないからだ。たとえば15年度の法人実効税率引き下げでは、租税特別措置の一部廃止や外形標準課税の拡大が財源となった。「事業税の外形標準課税の拡大によって、減税ではなく増税になってしまった企業の方が多い」(経団連事務局幹部)という。課税ベースの拡大を財源とするだけでは設備投資への効果はほとんどない。

経済同友会の小林喜光代表幹事も「少なくとも法人税率を2%なり1%減らすと1000億円以上の財源が減る。その分を企業からまた取るというのでは、あまり大きな効果は期待できない」(12日の記者会見)との見方を示す。 
経団連は現在、16年度実効税率を30.88%まで引き下げることを目標に政府と調整している。課税ベース拡大が議論されているため、来年度の20%台への引き下げには強くこだわっていない。榊原定征会長が11日の諮問会議で20%台への引き下げを「来年度にも」と述べたが、課税ベース拡大を覚悟している。
企業側はむしろ、機械設備などの償却資産への固定資産税廃止など、投資に直接結びつく政策が効果的だとみている。しかし、こうした減税には、税収減となる地方から反発される。
法人実効税率を引き下げてもなかなか投資が増えず、内部留保が積みあがっている現状に、自民党の 一部からは内部留保への課税を検討すべきとの声もでている。こうした動き対して、米倉弘昌・前経団連会長は16日、外国人特派員協会での会見で「景気見通しが不透明なら、企業は投資に慎重になるだろう。潤沢な内部留保を設備投資に回すべきと言われるが、内部留保は現預金で保有しているのではない。実際には設備や投資として保有している」と反論している。
実際、法人減税が継続してきたにもかかわらず、実効性は上がっていない。設備投資の回復は他の需要項目に比べて遅れている。
足元の設備投資は、7─9月期GDP統計で2四半期連続の減少となり、機械設備の10─12月期の受注見通しも7─9月期の落ち込み後にしては小さい上昇だ。新興国経済減速の影響で企業が投資に慎重になっている。
日立製作所 (6501.T)の中村豊明副社長は中間決算発表の席で設備投資について「市場環境が変わってきているので、グループ各社が提案してきる数字よりも抑え気味にしている」と語った。 
11月ロイター企業調査では中国減速が1年以上長期化するとの回答が7割を超えた。輸出型産業を中心に設備投資計画を先送りする企業が4分の1となった。「売上見通しが厳しいため投資を抑制していく」(輸送用機器)との意見がある。 
さらに、パリでのイスラム国の同時テロが企業マインドに影響する懸念材料としてある。 
しかし下期に予定されている投資計画が中止されることはない。企業は「もともと最低限の投資しか計画していない」(11月ロイター企業調査から)8割が計画通り実行すると回答している。
コマツ (6301.T)の藤塚主夫専務執行役員も中間決算の席で「設備投資は絞っている。国内では45年、50年たった古い工場は効率も悪くなっている。国内で増産投資をするつもりはないが、工場を効率よく変えてコストダウンする」と語った。
ある経団連幹部は中長期的に政府の掲げる名目3%成長の企業投資を拡大させていくには、他国並みの25%まで実効税率を引き下げ、海外からの投資も呼び込む必要があるとする。過去5年間、東日本大震災などの特殊事情がない年の設備投資は2%程度の伸びが上限だった。
来週に予定される政府と産業界の「官民対話」では、経済の好循環持続のために官民それぞれがどこまで実現できるかが重要だ。